不自由な中だからこそ生まれる、言論の力

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(出所 CNN.com)

尖閣諸島に偽装船団を送り込み、日本に対して強い圧力をかけている習近平政権であるが、中国国内に対しても、言論弾圧を強めている。

昨年7月から摘発された活動家、弁護士らは300人を超え、逮捕者は20人以上に上り、このうち起訴された4人に今月有罪が言い渡された。判決では4人が非合法に国家転覆を狙い、活動家などを煽動したと断罪し、更にメディアが見せしめとして裁判の過程を公開し謝罪する姿を何度も報じた。

メディア、司法当局共に共産党体制と一体となり、中国国内の言論統制を一層強めている。もはや中国国内には言論の自由など無い。

しかし、日本ではあまり知られていないが、莫言(モー・イエン)と言う中国人作家を紹介する事で、少し考えを幅広くできるかもしれない。

モー・イエンは2012年ノーベル文学賞を受賞した人物。私たち日本人にとっては大本命、村上春樹を押し退けての受賞者であるといった方がそのスゴさが伝わりやすいかもしれない。

とはいえ、同氏は中国国内の知識人、文化人から「体制側の御用作家」として、痛烈な批判を受けたのだ。確かに彼は反体制派の作家のスピーチの途中で退席したり、毛沢東を礼賛する運動に参加するなど、体制側と見られても仕方が無い行動が目立った。しかし、それは言論統制を潜り抜ける為のものであって、作風は、一貫して大きなユーモアで包み込みながら、共産党の暗部を抉り出しているものだった。受賞作となった「蛙」(邦題「蛙鳴・アメイ」)はそれまで国内の作家が誰一人扱わなかった、中国の一人っ子政策に真正面から向き合った意欲作なのだ。

「露骨な性的描写が多い」として、中国では一時発売禁止となっていた「豊乳肥臀・ほうにゅうひでん」では、日本人へ向けた後書きのなかで、「おのれの注意力を政治や経済の研究にのみ傾けているようでは、小説中の人物を岐路に迷わすことになろう」と語り、この作品が発表され大批判を受けた際も、「黙って堪え忍び、密かに投獄に対する心構えすらした」と語っている。

国外に亡命せず、政治的な争いは避けながら、国家への批判精神は作品の中に忍ばせてきたのだ。だからこそ、パワーがある。

彼は、ノーベル文学賞の受賞後の会見で2010年にノーベル平和賞を獄中で受賞した、劉暁波さんについて「出来るだけ早く釈放されるべきだ」と発言して中国政府の度肝を抜いた。「ノーベル文学賞」という国際的な命の担保を取ってようやく彼は政治的な発言をしたのだ。

あるインタビューで彼はこう答えた「表現が多少不自由な国の方が、作品の芸術水準は高くなる」と。

中国という外から見ると自由が見えにくくとも、何かを世に問うという人間が持つ底知れない力を私たちは同じ中国から知る事が出来る。

最近では、2016年4月、児童文学のノーベル賞と言われる「国際アンデルセン賞」を中国人作家として初めて、曹文軒(ツアオ・ウェンシュン)が受賞した。28名の候補者中、全会一致で決まったという。中国の文化はさらに世界に広がっていく可能性を感じる受賞だ。

以下にいくつかの書籍を紹介する。秋深まるタイミングで、中国の文学に触れてみてはどうか。

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莫言 「豊乳肥臀」
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彼の代表作であるが、5年間発禁処分にあった。
構想10年、50万文字に及ぶ本作を90日間篭り一気に書き上げたという。

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谷崎潤一郎 「上海交遊記」
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中国通で知られる彼は、中国に2度訪れ、一時期「支那趣味」の小説や随筆を精力的に制作した。

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六六(リュウ リュウ) 「かたつむりの家」
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2007年初版 2009年に北京でテレビドラマ化、その後作品の舞台となった上海で放送開始したが、一週間で突然打ち切りになってしまう。理由は不明だが、あまりにもリアル過ぎたためだと噂されている。

(文責 阿田祐一 あだゆういち)